面白いお話の作り方研究所

書く立場から考える

成長しない主人公について

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大きく葛藤せず、だから成長もしない主人公について考える。

成長とは

作劇論を見ると大体「主人公を成長させなさい」とある。「変化」とも言う。おおむね賛成だけど、教科書に書いてあるルールは上手に破れば魅力になる。

成長しない主人公のメリット

主人公に葛藤させない事で、「初めから魅力的な人物」を描けるようになる。従来のように問題を持った人物が物語の終わりに良い人間になるのではなく、魅力的な人物がずっと魅力的なままでいられる。人のキャラ化が進む現代らしい作劇方法と言えるかもしれない。またインターネット、SNSが普及し「人生のネタバレ」が人々の共通感覚となっている現代、「人は変化しない」「強い人が結局強い」という、ある種身も蓋もない哲学とも親和性が高いと言えるかもしれない。

主人公の役割

この場合、主人公は感情移入の対象ではなく、物語の語り部、物語と観客の橋渡しのような役目を持つ。主人公と触れ合う事で、影響が波及し、周囲が葛藤を乗り越え成長し、物語が生まれる。いくつか例を挙げる。

  1. ヘアスプレー
    主人公のトレイシーは始めからポジティブである。途中小さな挫折、葛藤はあるものの、基本は「ハッピーであり続けること」が彼女の役割であり、その行動力に影響された周囲が挫折、変化、成長していく。個人の挫折にフォーカスしないことで、時代の変化、社会の成長を描くことに成功している。ある種の神話であり、フォレスト・ガンプと少し似た性質を持つ。
  2. きっと、うまくいく
    主人公のランチョ―は初めからポジティブである。トレイシーと同じくハッピーであり続ける事が彼の役割である。こちらも新しい価値観を提示することに主題があるが、ヘアスプレーとは違い、より現代のお話である。現代のインドでしか撮り得ない映画だったと言える。
  3. 天使にラブソングを2
    主人公のデロリスは、1で既に問題を概ね解決しており、2では指導側に回る。困難に対し対応はするが、葛藤、成長は概ね生徒の役割である。ここまでの3本はどれもミュージカル、音楽が重要な映画であるという点は、特徴的かもしれない。
  4. BIG FISH
    ずっとポジティブであった父の思い出話を、葛藤する息子が語る。ミュージカルではないが音楽の魔法の代わりに映像の魔法が多用される。
  5. ワンパンマン
    成長しないヒーロー。原作はより「成長しなさ」が際立っている。現代的。

主人公が成長しない事で、観客は安心して物語に浸る事が出来る。この場合、主人公とは語り部のような性格を持つ。誰も変化しなければ日常系だが、周囲に影響を与えるという描写から映画的なカタルシスが生まれる。上記の例はポジティブな物語が多いが、これがネガティブ/ダークな主人公だったらどうだろうか。新しい構造が生まれるかもしれない。