面白いお話の作り方研究所

書く立場から考える

フォード vs フェラーリ

映画の感想なんかもぼちぼち書いていきたい。という事でフォードvsフェラーリ見てきました。

 

大衆車のキングだが売り上げが下がっているアメリカのフォードが、売り上げでは弱小だがレースの世界ではキングのフェラーリにレースで勝利しようと立ち向かう話。実話ベース。主演はマットデイモンとクリスチャンベイル。元スーパーレーサーだが事故を経験し現在はしがない自動車販売員のマットと、頑固なエンジニア兼レーサーのベイルのおじさんコンビによるプロジェクトX

 

メインがフォードという事で、金持ってる側がコツコツ手作業で質の高い仕事する側をやっつける話。なので、一般的な物語の図式とは逆。ワンエピソードで弱小のフェラーリを「憎らしい敵役」として見せたのはすごいと思う。

 

この物語的な価値観の逆転には、それぞれの社長の描き方が一役買っている。イケイケ社長は苦境の中説得力ある演説をうてる経営者で、高圧的だが助手席に乗ったら涙を流しかわいいところを見せる。しかし根本ではより近い副社長とツーカーで、最後はレースを見ずにヘリで去っていく。史実なのだろう。3台揃ってゴールインとか、レースを舐めてる采配。とても軽薄で悪役に据えた方が座りが良いが、「彼なりの正義に忠実」「意見を変えることができる」「かわいいところもある」あたりを抑えつつ、都合が悪いところはサラッと描く。レースにより誠実なフェラーリの社長は、高慢な古だぬきとして登場するが最後視線一つ、会釈一つで矜持を見せる。バランスが上手い。

 

2h半近い長い映画だけど、さくさく見れる。わかりやすい。ノイズカットが周到で、例えば奥さんはめちゃくちゃ理解がある。甲斐性のない夫が弱気になっても、あるいは試走で無茶して結構な事故に巻き込まれても、「レースなんて辞めてくれ」とか一切言わない。むしろめちゃくちゃ後押しする。夫婦仲の危機は一切ない。いや一瞬あるけど、安心して、笑って見られる。そしてめっちゃ小顔長身美人。カトリーナ・バルフというモデルさんらしい。シュワ×スタローンの大脱出の娘さん!そうかー

 

シーン数的には60オーバー。だけどきれいにまとまってて、とても見やすい。人物紹介と敵の設定で20シーンくらい、チームの結成→危機→復活で20シーンくらい、チームの力を示してラストの大勝負に繋げるのに15シーンくらい、大勝負とエンディングに10シーンくらい、な感じ。4ブロック。で、各ブロックの頭に、素敵な演説か素敵なポエムがある。実に分かりやすく美しい。

 

「実話をベースにしつつ、ノイズカットでちゃんとエンタメとしてまとめる」バランス感が、ボヘミアン・ラプソディを連想させた。フレディほどエモい人はそうそういないから、あんなにエモくはないけど、組織があって、キッズマインド溢れる良いおっさんが二人いて、嫌な奴がいて、良いおっさんがバディとして組織の中でなんとか立ち回って、嫌な奴をやっつける。キッズマインド溢れるおじさんとしてはグッと来ざるを得ない。女性が見たらどう思うのかな。

 

全体的に、お金に対する深刻さは、あんまりない。工場差し押さえとか実際降りかかったらきつい状況だし、その描写もあるのだけど、割とすぐ解決したり奥さんがとにかく気にしてない感じだったり...というか、気にしてるけど思ったほど深刻じゃないんだよな。この感じはノイズカットでもあるだろうし、ALWAYS的な懐古かもしれないのだけど、監督が描きたかったことなのかもしれない、とも思う。何とかするしかないし、であれば深刻になる事にあまり意味はなくて、やってみたら何とかなる事も割とある。その位の感じで居れば良いんだぜというメッセージ、なのかもしれない。

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フォードvsフェラーリ