面白いお話の作り方研究所

書く立場から考える

YESTERDAY

イエスタデイ (字幕版)
脚本家:リチャード・カーティス - 映画.com

YESTERDAYという映画を見た。良い映画だったけど、なにかコレジャナイ感を感じたので、そのことについて書きながら考える。

ワンアイディアもの

個人的な分類で言うと、この映画はワンアイディアものに属する。強力なワンアイディア、もし○○だったら…という閃きから展開する物語。全てのフィクションが「もしも○○だったら…」に属するとは思うんだけど、その物語の核がそこにあるかどうかがキモ。他には、

あたりが思いついた。他にもあると思う。

コレジャナイ感

ワンアイディアものだからコレジャナイ感があるわけじゃない。上に上げた映画はどれも好き。YESTERDAYになくてこれらにあるものは何か。

ワンアイディアを越えてくる展開

YESTERDAYは、アイディアの強さを展開が越えてこない感じがする。キャラ配置、葛藤、解決が、どれも予定調和的で驚きがない。驚きがまったくないわけじゃなくて、最後の神様登場は嬉しいサプライズだった。けど遅い。「さすがにそろそろサプライズが無いとしんどいな…」ってタイミングでやっと起きるサプライズだから、ぶっ飛ばされる感じがない。

もっというと

全ての要素が、アイディアに奉仕している感じがする。多分これは順序が逆で、アイディアがキャラクターに、映像に、観客に、物語に、総じて映画に奉仕すべきなんだと思う。脚本はノッティングヒルの恋人ブリジット・ジョーンズの日記ラブ・アクチュアリーリチャード・カーティスということで、なるほどラブコメの人かと思った。確かに恋愛パートは気が利いてたと思うし、主人公があんまりひどい目に合わないのもラブコメっぽいかもしれない。

とはいえ

評価は高い様子。あ、そうですか。

フォード vs フェラーリ

映画の感想なんかもぼちぼち書いていきたい。という事でフォードvsフェラーリ見てきました。

 

大衆車のキングだが売り上げが下がっているアメリカのフォードが、売り上げでは弱小だがレースの世界ではキングのフェラーリにレースで勝利しようと立ち向かう話。実話ベース。主演はマットデイモンとクリスチャンベイル。元スーパーレーサーだが事故を経験し現在はしがない自動車販売員のマットと、頑固なエンジニア兼レーサーのベイルのおじさんコンビによるプロジェクトX

 

メインがフォードという事で、金持ってる側がコツコツ手作業で質の高い仕事する側をやっつける話。なので、一般的な物語の図式とは逆。ワンエピソードで弱小のフェラーリを「憎らしい敵役」として見せたのはすごいと思う。

 

この物語的な価値観の逆転には、それぞれの社長の描き方が一役買っている。イケイケ社長は苦境の中説得力ある演説をうてる経営者で、高圧的だが助手席に乗ったら涙を流しかわいいところを見せる。しかし根本ではより近い副社長とツーカーで、最後はレースを見ずにヘリで去っていく。史実なのだろう。3台揃ってゴールインとか、レースを舐めてる采配。とても軽薄で悪役に据えた方が座りが良いが、「彼なりの正義に忠実」「意見を変えることができる」「かわいいところもある」あたりを抑えつつ、都合が悪いところはサラッと描く。レースにより誠実なフェラーリの社長は、高慢な古だぬきとして登場するが最後視線一つ、会釈一つで矜持を見せる。バランスが上手い。

 

2h半近い長い映画だけど、さくさく見れる。わかりやすい。ノイズカットが周到で、例えば奥さんはめちゃくちゃ理解がある。甲斐性のない夫が弱気になっても、あるいは試走で無茶して結構な事故に巻き込まれても、「レースなんて辞めてくれ」とか一切言わない。むしろめちゃくちゃ後押しする。夫婦仲の危機は一切ない。いや一瞬あるけど、安心して、笑って見られる。そしてめっちゃ小顔長身美人。カトリーナ・バルフというモデルさんらしい。シュワ×スタローンの大脱出の娘さん!そうかー

 

シーン数的には60オーバー。だけどきれいにまとまってて、とても見やすい。人物紹介と敵の設定で20シーンくらい、チームの結成→危機→復活で20シーンくらい、チームの力を示してラストの大勝負に繋げるのに15シーンくらい、大勝負とエンディングに10シーンくらい、な感じ。4ブロック。で、各ブロックの頭に、素敵な演説か素敵なポエムがある。実に分かりやすく美しい。

 

「実話をベースにしつつ、ノイズカットでちゃんとエンタメとしてまとめる」バランス感が、ボヘミアン・ラプソディを連想させた。フレディほどエモい人はそうそういないから、あんなにエモくはないけど、組織があって、キッズマインド溢れる良いおっさんが二人いて、嫌な奴がいて、良いおっさんがバディとして組織の中でなんとか立ち回って、嫌な奴をやっつける。キッズマインド溢れるおじさんとしてはグッと来ざるを得ない。女性が見たらどう思うのかな。

 

全体的に、お金に対する深刻さは、あんまりない。工場差し押さえとか実際降りかかったらきつい状況だし、その描写もあるのだけど、割とすぐ解決したり奥さんがとにかく気にしてない感じだったり...というか、気にしてるけど思ったほど深刻じゃないんだよな。この感じはノイズカットでもあるだろうし、ALWAYS的な懐古かもしれないのだけど、監督が描きたかったことなのかもしれない、とも思う。何とかするしかないし、であれば深刻になる事にあまり意味はなくて、やってみたら何とかなる事も割とある。その位の感じで居れば良いんだぜというメッセージ、なのかもしれない。

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フォードvsフェラーリ

 

同じセリフが違って聞こえる

宇多丸師匠が「見る、見られるの関係の逆転する瞬間」というのは映画的な快感と密接なつながりがある、みたいな事を言っていて大変納得したのだけど、それに類するものとして「同じセリフが違って聞こえる」という状況は、物語的な快感があると思う。

勝つ理由について

物語において、敵が勝つのに理由はいらないが、主人公が勝つには理由がいる。敵は主人公より強くなければいけないから。いろんな映画の勝つ理由の要約をまとめる。ここでいう勝つ理由とは、主に観客を納得させるために必要なものである。そういう意味では、ハッピーエンドを迎えられる理由とも言える。

  • レオン
    レオンが本気を出さざるを得ない状況に巻き込まれたから。
    チルダが機転を利かせ、レオンがそれを正しく受け取ったから=二人の関係が深化していたから。
    内的な欲求に対し面白くも間違った方法を取っていたが、健全な方法になったから。
    予想外の方法
  • トゥルーマン・ショー
    勇気を出したから。
  • グッド・ウィル・ハンティング
    勇気を出したから。
  • ショーシャンクの空に
    長い時間をかけたから。
    職業知識を生かし、ウマくやったから。
    予想外の方法
  • MADMAX fury road
    地に足のついた方法をとったから。
    犠牲を払ったから。
    最強の車両があったから。
  • シン・ゴジラ
    上司が全滅したから。
    みんなが協力したから。
    はみ出しものの意見を採用したから。
  • ヘアスプレー
    これが未来だから。
    ポジティブだったから。
  • ガタカ
    長い時間をかけたから
    予想外の方法(最初から)
    犠牲を払ったから。
    最後、小さな協力をしてくれたから。
  • オデッセイ
    ポジティブだったから。
    職業知識を生かしたから。
  • ゼロ・グラビティ
    ポジティブだったから。
  • あの頃ペニー・レインと
    健全だったから。
  • 96時間
    職業知識を生かしたから。
  • インビクタス
    ポジティブだったから。

以上。ポジティブであること、職業知識を生かすこと、長い時間をかけること、あたりは好きかもしれない。また追記したい。

ハリウッド脚本術におけるストーリーの10の構造

ハリウッド脚本術におけるストーリーの10の構造をメモ。説明は僕の解釈。詳しく知りたい人は検索してみてください。

  1. バックストーリー
    どんな状況か、どんな人か。
  2. 内的な欲求
    何に不足を感じているか。感情的な欠損。
  3. きっかけとなる事件
    繰り返す日常が今日だけは特別な日となるきっかけ。
  4. 外的な目的
    事件を経て生まれる具体的な目標。
  5. 準備
    レーニング。リングに上がるために。視聴者との差別化。
  6. 対立
    壁にぶつかる。
  7. 自分をはっきりと示すこと
    ネックとなっていた内的な欠損に取り組む。
  8. 執着
    変化した人間として外的な目的に集中。
  9. 闘争
    最後の戦い。
  10. 解決
    外的な目的の達成。状況の変化。

※あくまで基本。ハズシは重要。